こんにちは、美術検定協会です。突然ですが、こちらのブログを読まれる美術検定に関心がおありの皆さんは、プロレスをご覧になりますか?
「アートとプロレスには共通点があるんですよ!」と熱く語るのは、美術検定2級を取得するお笑い芸人・ユリオカ超特Qさん。ユリオカさんはアートだけでなく、芸能界屈指のプロレスファンとして、漫談の中でもネタとしてそのプロレス愛を披露しています。
そんな時に、プロレスファンの愛読書『週刊プロレス』(ベースボール・マガジン社)で、アート要素満載の「闘藝」という連載があるという話を聞きつけ、今回ユリオカさんとその「闘藝」の企画編集を担当される『週刊プロレス』編集部・岡崎実央さんに直接対談いただくことになりました!
はたして、アートとプロレスに共通点はあるのかないのか? 試合開始です!
―岡崎さんが最初にアートとプロレスの接点を持ったのはいつでしょうか?
岡崎:もともとプロレスが好きだったんですが、なかなか友達に受け入れてもらえなくて…
そもそも知らない人が多いんですよね、プロレスを。好きか嫌いかを判断する前に、
まずは知ってもらいたいと思って。美術大学でデザインの勉強をしていた時に、制作
課題が出たら“プロレスを伝える”ための作品を作っていました。
ユリオカ:そうそうプロレスって、みんな知っているのにあまり知られてない部分も多い
んですよね。芸人の世界でも、プロレスの魅力を面白楽しく伝えている人もいた
りしますね。
―アートも、好きな人は好きだけど興味ない人は全く興味ない、とよく言われます。「美術検定」は、アート好きな方が知識を高めつつその魅力を伝えていく、という人々を応援する検定試験です。多様な美術の知識を培う中で、アートはいろんなジャンルとクロスしている部分があると感じるのですが。
ユリオカ:メキシコには“マスクマン”など、プロレスのマスクやコスチュームなどはすごく
アートの要素がありますね。マヤ文明のデザインを取り入れたり。
昔の選手ですが、マティマティコ(*1)という選手は、コスチュームに数字が
いっぱい描いてあって。まるで宮島達男のデジタルアートみたいです(笑)。
岡崎:試合の入場は、自己プロデュースのパフォーマンスとして一番のみせ場ですよね。
ユリオカ:自己表現としてどんな手段をとっていいという自由さは、すごくアート的です
ね。
―プロレスでは、もともとビジュアルが重視されていたのでしょうか。
岡崎:プロレスのマスクについて、過去さかのぼってまとめたことがあるのですが、最初の
頃はシンプルなマスクが多かったですね。
ユリオカ:昔はめちゃめちゃシンプルでしたね。今はほとんどパターン出尽くしたんじゃな
いかって感じなくらいに、バラエティに富んでますよね。一方で、原点回帰とい
うか、黒タイツのみのようにあえてシンプルなコスチュームの選手もいますね。
岡崎:今は選手のタレント性が大きいからか、シンプルなものが逆に目立ったりもします。
―岡崎さんが『週刊プロレス』で「闘藝」を編集する時は、どこに着目していますか?
岡崎:これはプロレス技に注目した作品なんですが、プロレスってこの技で体のどの場所が
痛いのか分からない、と言われたことがあって、紙にダメージを与える、例えば、破
る、折るなどでその痛さを表現できるかなと思って作りました。
ユリオカ:この前岡崎さんの作品が展示されていたギャラリーにも行きましたよ。レジェや
ブラックっぽい作品でした。
岡崎:あれはキュビスムを意識して描きました。プロレスの試合ってキュビスムっぽいんで
すよね。いろんな角度から、四角いリング上の選手を見ることができますよね。場
所によって選手の見え方も違う。キュビスムもさまざまな角度からの視点を平面に収
めているので、キュビスムという技法でプロレスを表現したいなと思って、この作品
を作りました。
ユリオカ:たしかに、リングサイドで見るのと二階席で見るのとは違いますね。われわれ芸
人のステージのように一方向ではなく、360度あらゆる角度でみられるのはキュ
ビスムの視点ですね!プロレスファン、気づいてますかね(笑)。
―ユリオカさんは、アートとプロレスの共通点はどこにあると思いますか?
ユリオカ:プロレスは全国主要都市を巡業しますが、美術館も全国各地にありますよね。だ
から地方に旅行に行った際、プロレスの試合を見る前に美術館に行ったりします
ね。美術館はだいたい17時か17時半に閉館して、プロレスは18時頃から試合開
始なんで、美術館とプロレスは連携していますね(笑)。
あと、プロレスファンって会場に思い入れが強くて、聖地化しているというか、
その会場で見るという行為に価値を見出すんですが、美術館もその館でないと見
られない所蔵作品とかありますよね。美術館の建築もしかり。場所に思い入れを
持っているというところは共通しているんじゃないかな。
それと、生で見るというのはどちらも共通していますよね。プロレスと絵画って
ぜんぜん違うんですが、テレビや雑誌で見るのと生で見る迫力は違うなと。アー
トも実はそうなんですね。
―プロレスラーはアート作品、なんですね(笑)
岡崎:プロレスラーの武藤敬司選手(*2)も、“プロレスは芸術”っておっしゃっていたと
思います。
ユリオカ:プロレスラーでもアート好きな人いますよ。中邑真輔選手(*3)はご自身で絵
も描かれる方で、コスチュームも技もアートっぽいんです。ある時から身体がく
ねくねし始めて、岡本太郎じゃないですが「なんだこれは?」と思っていたので
すが、だんだんとあの動きが見たくなってきて。すごくアートの要素を持ってい
ますね。
―岡崎さんが「闘藝」の連載を始められて、まわりの方々のプロレスへの意識が変わったといった感覚はありますか?
岡崎:プロレスにもアートにも興味ない友人が、『週刊プロレス』を買ってくれるようにな
りました。その友人は、私がいなかったら一生『週刊プロレス』を手にしなかったん
じゃないかと。少しでもプロレスを知ってもらって、さらに一冊でも売れれば、私の
存在意義が認められたんだと思います(笑)。
ユリオカ:アートも高尚すぎてどう見ていいか分からない、といわれるように、プロレスも
「血が出るから」って敬遠されがちなんです。でも、アートも全部を好きになら
なくてもどれかひとつは引っかかる作品があるように、まずはプロレスを知って
もらって、「この選手が好き」から入ってもいいんですよね。
岡崎:私の母も、試合は好きじゃないけど「この選手は好き」っていいますね。
あと、プロレスを全く知らない友人を試合に連れて行った時、「何がよかった?」と
聞いたら「選手のお尻がよかった」と(笑)。友人はそこを見ていたんだ!と面白
かったです。
ユリオカ:どのジャンルでもそうなんですが、ひとつお気に入りが見つかれば、そこから興
味を広げられますよね。その最初のとっかかりが大事ですよね。
岡崎:美術好きな人は、割とプロレスにハマるんじゃないかと思います。
―美術検定の受験者の方でも、ある時急に美術に目覚めて、美術館やギャラリーに足繁く通うようになった、というお話はよく聞きます。
ユリオカ:ギャラリーに行くというのは、インディーのプロレスに行く感じに似てますね。
岡崎:小さい箱に行く感じですよね、商店街や公園の野外ステージみたいなところでも、プ
ロレスの試合は行われますし。コスチュームと体があればできるので。
ユリオカ:以前公園でプロレス見ましたよ。ルールもリングのある会場とは違って。アート
でいうところの、インスタレーションやパフォーマンスみたいな感じでしょう
か。アートもそうかもしれませんが、何を最初に見るかというのは大事ですね。
―現代アート好きな人は、インディーのプロレスに興味ありそうですね。
岡崎:昔の古典的なプロレスは好きだけど、今のプロレスはちょっと…みたいな人もいます
からね。
ユリオカ:あと、プロレスは他のジャンルよりも選手との距離が近いかもしれませんね。選
手と会えたり、一緒に写真撮れたりできますしね。
岡崎:試合も動画はNGの団体が多いですが、昔から写真は撮影OKでしたね。
―アートとプロレス両方の魅力を伝えるために、何かやってみたいことはありますか?
ユリオカ:プロレスファンとアートファンの中間点に立って、例えばアートの専門家の方の
話を、プロレスファンにプロレスに例えて分かりやすく説明したりしたいです
ね。その逆もしかりですが。それぞれの専門家の媒介としてつないでみたいです
ね。
岡崎:プロレスラーのYOH選手(*4)はコラージュやシルクスクリーンを使った作品など
を制作していて、以前一緒にプロレスをテーマにしたグループ展をしました。その時
は、普段アートを見ないようなプロレスファンもこの展覧会を見にきてくれて。今年
もプロレスをテーマにした展覧会は行われるようです。
連載「闘藝」のネタも切れてきたので(笑)、ユリオカさんとも一緒に何かやりたい
ですね!
ユリオカ:岡崎さんの作品がまとめて見られる機会があったら、僕が聞き手になって、プロ
レスと絡めながらまたアートのキーワードも織り込みつつ話をしたら、プロレス
ファンはくいついてくれるかもですね!
岡崎:アート界の人をプロレス界に引き込んで、またプロレス界の人をアート界に引き込み
たいというのが私の野望ですね。
―今日はありがとうございました!アートとプロレスをつなぐお二人の今後の活躍に期待しています!
ユリオカ超特Q プロフィール/
お笑い芸人。漫談家。芸能界屈指のプロレスファン。プロレスに関するネタや、時事ネタ、
スキンヘッドを売りにしたハゲネタを披露している。
岡崎実央 プロフィール/
武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業後、
(株)ベースボール・マガジン社に入社。
現在『週刊プロレス』編集部2年目。
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取材・文/高橋紀子(美術検定協会・編集チーム)
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