こんにちは、美術検定協会です。「美術検定1~3級オンライン試験」の合否結果も受験者の皆様に通知され(受験された皆様お疲れ様でした!)、いよいよ2020年も終わろうとするこの頃、今回はモデル・タレントだけでなくライターとしても活躍されている加治まやさんに、美術検定への取り組みについてお話を伺いました。
―加治さんは今回美術検定2級を取得されましたが、美術検定を知ったきっかけ、受験しようと思ったきっかけは何でしたか?
美術展で美術検定のチラシを見たのがきっかけだったと思います。大学で美術史を専攻
していたので、自分の知識を美術検定で試してみたいと思い受けました。
―大学で美術史の勉強をされていたんですね。どうして美術史に興味を持たれたのでしょうか。
父が絵描きなので、小さい頃から周りに絵がある環境で育ちました。父に連れられて銀
座の画廊や美術館に行くこともありましたし、美術はもともと慣れ親しんだものでした。
歴史小説をよく読んでいて歴史も得意だったので、大学では、歴史と美術という好きな分
野をあわせて学べることのできる美術史を専攻することにしました。それから博物館学芸
員の資格が取れることも魅力でしたね。
―大学の美術史コースではどんなことを学ばれましたか?
私が通っていた明治学院大学では、1・2年生は西洋美術と日本東洋美術どちらも学ぶのですが、その時に受けた山下裕二先生の講義は日本美術の面白さに目覚めるようなものでした。また、当時森美術館で開催されていた「日本美術が笑う:縄文から20世紀初頭まで」という展覧会が、日本美術の中にある「笑い」に着目したユニークな企画で、自分が持っていた日本美術は敷居が高いというイメージを崩してくれました。
そうしたきっかけがあって、3年生からは日本・東洋美術専攻に進み、本格的に学びはじめました。卒業論文のテーマには仏像を選びました。私の父はバングラデシュ人、母は日本人です。私自身、南アジアにルーツがあるので、同じようにインドで発祥した仏教の美術には親近感を持ちました。実際、インドからの影響を残した仏像は、手の形や腰付きなどがなんだか自分にそっくりなんです。私と同じ日本と南アジアのフュージョンですね!
―他はどんな美術が好きですか?また、これまでで印象に残っている美術体験はありますか?
キリスト教や仏教など、宗教に関連する絵が好きですね。キリスト教の神や聖人はいつも美しく描かれています。キリスト教では偶像崇拝は禁止されていますから、宗教の教えを伝える目的のために描かれているはずですが、その偶像という仮の姿は、現在の私たちが見ても魅力的に思うような普遍的な美しさを持っている。純粋に教義を啓蒙するためだったら、ここまで美しく作りあげる必要があったでしょうか。当時の人はどんな風に見ていたんだろう、と思うと感慨深いです。
特に印象に残っているのは、マルタ共和国の大聖堂で見たカラヴァッジョの祭壇画ですね。この絵はこの場所のために描かれたのだ、ということが実感として滲みるような体験でした。また、カラヴァッジョが罪を犯してマルタに逃げてきたという事実を知っているからこそ、余計にドラマチックに感じました。
ルーヴル美術館のような壁全体にいろんな絵が展示されている空間も面白いですが、場所の必然性とともにある作品をその空間で感じる絵画体験は格別です。同じ理由で、お寺で仏像を見ることも大好きです。
―美術検定の受験にむけてはどのような勉強をされていましたか?おすすめの勉強法があれば教えてください。
基本的には、テキストを使って勉強しました。特に苦手だった近現代美術は重点的に。用語を覚えるのには苦戦しましたが、改めて基礎から知識を身につける機会になりました。
あと歴史に関しては、私の場合もともと歴史小説とか昔の時代や偉人を題材にしたフィクションも好きなので、勉強している時も「あの小説の時代だ」とか「あの漫画にも出てきたキャラクターだ」とか紐付けて理解することができました。例えば、『チェーザレ~破壊の創造者~』という漫画にはダ・ヴィンチやミケランジェロが出てきますし、15世紀のイタリアの状況も詳しく描かれています。定番ですが、ダン・ブラウンの小説『ダ・ヴィンチ・コード』や『天使と悪魔』も美術を絡めた話で面白いですよね。アーティストの伝記的映画なら、『モディリアーニ~真実の愛~』というモディリアーニが主人公の映画も好きでした。
それから、美術館に行くのはもちろん好きなので、美術館に行くこと自体が自然と勉強になっている部分はあったと思います。一通りテキストをこなしたら、本物の作品を見るのが一番頭に残ります。美術館の常設展は時代別やテーマ別に並んでいることが多いので、テキストの復習にもってこいです。展覧会のカタログもおすすめです。一般の単行本などと比べたら高価に思えるかもしれませんが、全部の作品に解説がついていて、かつカラー写真の豊富さを考えたら超お買い得ですよ!
―美術検定を受験してみて、なにか新しい発見はありましたか?また、お仕事や生活上でも変化があれば教えてください。
同じ作品一つとってみても、時代背景や、制作された経緯、マテリアル等についての知識があるのとないのとでは、全く見え方が違うんだなという気づきがありました。私は、知識は感性に作用すると考えていて、作品に付随するちょっとした事を一つ知っているだけでも、見方も感動も深さが変わってくるものだと思っています。
仕事の面では、美術関係のライティングの依頼も入ってくるようになりました!『美術展完全ガイド』(発行・晋遊舎)というムックや、他にもウェブ媒体にコラムを寄稿させていただいています。
また2019年より、在バングラデシュ日本国大使館文化交流サポーターを務めさせていただいているのですが、大使館からのお声がけで、バングラデシュとインドにある大学4校の日本語学科の学生向けに、浮世絵の講義をする機会をいただきました。50〜60枚ほどの浮世絵を見せながら、江戸時代の日本の生活を紐解くような入門的な内容でしたが、学生はここまで多くの浮世絵を一度に見る機会というのがなかったようで、とても喜んでもらえました。「浮世絵を作っている人はまだいますか?」や「歌舞伎はなぜ未だに女性は立ってはいけないんですか?」なんていうハッとするような質問もあり、海外の学生からの視点が新鮮で、自分自身もっと勉強してもっと伝えたいという気持ちが湧いてきました。
―それは貴重な経験ですね!これから美術とどのように関わっていきたいですか?
同世代や若い人に向けて、美術や日本文化の面白さを伝えられるような発信をしていきたいです。周りの友人たちに聞いてみても、美術はまだまだ高尚なイメージがあるみたいです。日本では自宅に絵画を掛ける習慣もあまりないですし、アートに触れる環境にいない人たちにとっては興味を持つきっかけすら中々ない分野だと思うんです。私も「変わってますね!」って言われたりしますし(笑)
自分の経験上、子どもの頃からアートに触れることが大事だと思っていて。子どもを美術館に連れて行くなど、小さい頃から美術や文化に触れられる機会を持つのが普通になったらいいなあと思います。
―確かに、加治さんのTwitterを拝見しましたが、美術や歴史の豆知識が投稿されていて面白いですね。ちょっとした知識で、作品や歴史がぐっと近くに感じられますよね!
ね!それが、知識が感性に作用するってことだと思うんです。楽しいから、ほんとにみんなに美術や日本文化を知ってもらいたい!
―お忙しいところありがとうございました。今後の加治さんの美術を伝える活動を楽しみにしています!
取材・文/梅澤真由(美術検定協会・広報)
Comments